相続人が複数人いて、後々の遺産分割協議でもめないためには、遺言書の作成は有効な手段です。とくに、子のいない夫婦に相続が発生すると、遺産の4分の1は被相続人の兄弟姉妹が相続します。こういった場合は、遺言書がないと残された配偶者は他の法定相続人全員と遺産分割の話し合いをすることになり大変になります。この場合は遺言書を残した方が良いケースといえます。ほかにも、賃貸アパートを複数持っている場合も、どのように分けるかについては、実際のアパート経営者であった被相続人しか物件の特性や収支計画を判別できないときも多く、遺言書を残した方が良いと思われます。
相続手続きにおいては、被相続人の死亡時から10か月以内に相続税の申告が必要です。この短い期間で遺産を評価し公平に分ける作業は、遺産の内容が細かく多岐に亘るときには大変であり、あっという間に10か月が過ぎてしまいます。生前から法定相続人である子らに対して公平に遺産の情報を提供し、自分の相続に対する考えを常日頃から伝えているケースを除けば、少しでも揉め事が懸念されるときは、やはり遺言書を残した方がよいと思います。
さて、遺言書の種類について民法では、普通方式と特別方式に分けています。特別方式は特殊な場合なので、説明は省略します。普通方式は、①自筆証書遺言書、②公正証書遺言書、③秘密証書遺言書の3種類があります。このうち③秘密証書遺言書も特殊であるため、別の機会に触れます。
「自筆証書遺言書」は、自分が全部手書き(自筆)で作ることが原則です。なお、財産目録が多岐に亘るときは、特別な要件を満たせばパソコン等で目録を作成のうえ添付することができます。作成にあたって証人はいらないので、記載内容を秘密にして作成することができます。ただし、遺言書の効力を発生させるためには、死亡後に裁判所の検認手続が必要になることに注意が必要です。
「公正証書遺言書」は、公証人が遺言の内容をチェックをしたうえで作成するため、全国に約300か所ある公証役場に出向く必要があります(費用を負担して公証人が出張する方法もあります)。2025年秋口から公正証書は電子化され、Web会議による作成方式も可能になる予定です。また、作成に際して2名以上の証人が立ち会う必要があります。遺言書は公証役場に保管されるので偽造及び変造のリスクはないといえます。自筆証書遺言と違って作成の費用が掛かります。なお、裁判所の検認手続きは不要になります。
①の自筆証書遺言書は、令和2年7月10日に施行された「自筆証書遺言保管制度」により、法務局に保管申請することで、長期間にわたり大切に保管される仕組みができました。
この「自筆証書遺言保管制度」については、別の機会に投稿することとします。